心理学をつかったカウンセリング、コンサルティング、コーチングに興味があっても、マインドフルネスとかNLPとか、何がなんだかよく分からない、と悩んでいませんか?
実は、「心理療法」というキーワードに着目すれば、マインドフルネスとNLPの違いだけでなく、いろいろな技法のアウトラインが見えてきます。
なぜなら、これらはみな、「こころの安らぎ・成長を得て幸せになる」ための「心理療法」で、クライエントに「何を提供するか」によって、カウンセリング、コンサルティング、コーチングと呼び分けられているものだからです。
この記事では、「心理療法」のうち代表的な18技法についてご紹介します。
記事を読み終えると、皆さんが目指すカウンセリング、コンサルティング、コーチングにとって「どの技法が最適か」、「新たに取り入れるとしたら何がいいか」が分かるようになります。
心理療法とは
カウンセリング、コンサルティング、コーチングの定義
はじめに、カウンセリング、コンサルティング、コーチングの定義をしておきましょう。
Wikipedia「コーチング」によると、
これら3つは、「精神的成長を扱うが、精神衛生は対象ではない」としつつ、
クライエントに対して、
- カウンセリングは「治療」を提供
- コンサルティングは「解決策」を提供
- コーチングは「目標達成の支援」を提供
と整理されています。
これら3つは、いずれも、クライエントに「こころの安らぎ・成長を与えて幸せになってもらう」ためのサービスといえます。
心理療法の定義
心理療法(psychotherapy:サイコセラピー)は、心理学を応用した実践手法で、「こころの安らぎ・成長を得て幸せになる」技法です。
カウンセリング、コンサルティング、コーチングのベースとなる技法なのです。
また、「臨床心理学においては心理療法、精神医学においては精神療法の呼称が通常用いられ、事実上同じものを指す」とされています。[Wikipedia「心理療法」]
心理療法の種類(マッピング)
心理療法には、とても多くの種類があります。
全体の体系を整理したものを探していたところ、英語のサイトでいい情報を見つけたので、ご紹介します。心理学者である K.Kumar 博士が作成した図です。
つぎに、この図の内容を変えずに日本語版を作成したので、それを掲載します。
心理療法の18技法
心理療法のうち、代表的なもの(上図にあるもの)を
- 精神力動的心理療法
- 行動療法
- 認知療法
- 感情焦点化療法
- 統合的心理療法
の5つに分けて説明していきます。
精神力動的心理療法(Psychodynamic Therapy)
問題の根本原因に遡及する療法。
フロイトが創始した精神分析の現代版ともいえる。
誰にとっても原初的な人間関係は「親との関係」であり、その体験がクライエントの自己イメージを作り上げ、無意識のイメージが、その後の対人関係や人生のトラブル・問題に影響している、という観点から、クライエントの人生史を理解し、解決策を探る療法。
催眠療法(Hypnotherapy)
催眠によって深くリラックスした精神状態をつくり出し、いつもは自覚していない潜在意識の記憶や感情を思い出して悩みやストレスの原因を探り、本来の自己のあり方を取り戻すなかで問題解決を目指す療法。
新フロイト派の方法(Neo-Freudians Approaches)
精神分析学を引き継ぎながら、フロイトの欲動論(無意識の衝動が人間を駆り立てるという説)を批判し、文化的・社会的要因を重視する療法。
行動療法(Behavior Therapy)
顕在的行動(客観的に測定可能な行動)に焦点を当てる療法。
適応的でない行動は後天的に学習されたものという観点から、「学習」理論に基づく技法を用い、そうした行動を消去・減少・変容するか、適切な行動を形成することを目指す療法。
行動変容(Behavior Modification)
行動療法とほぼ同義で、「学習」理論に基づく技法を使い、適応的でない行動の変容を目指す療法。
系統的脱感作法(Systematic Desensitisation)
不安や恐怖刺激の弱いものから次第に強い刺激にステップアップし、リラックスしながら不安を十分にイメージすることにより、不安恐怖の克服を目指す行動療法。
モデリング療法(Modeling)
モデル(見本)が適応的な行動によって報酬(=強化)を与えられる状況を観察し、同じような行動・動作をすることによって、適応的でない行動の消去と適応的な行動の獲得を図る行動療法。
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT : Acceptance & Commitment Therapy)
困難な気分、ネガティブな感情を取り除くのではなく、受容(アクセプタンス)し、「私たちが自らの人生と共に今この瞬間に留まり、価値づけられた行動へと向けて前に進むこと」を目指す療法。[Wikipedia]
認知行動療法の第3世代に属し、「アクセプタンスとマインドフルネスの方略にコミットメントと行動変容の方略を併せて用いることで、心理的柔軟性の向上を目指す」療法。[Wikipedia]
オススメの本です。『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない: マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門』は、ACTの要点をまとめた本です。ACT創始者スティーヴン・C・ヘイズ博士の序文つき。
弁証法的行動療法(DBT : Dialectical Behavior Therapy)
マインドフルネス(今・ここで生じている自分の身体感覚・思考・感情の体験に「気づく」こと)を重視しながら、「理知的な心」と「感情的な心」の対立をバランスさせ、「賢い心」に到達する(対立の解消=弁証法)ことを目指す療法。
とくに境界性パーソナリティ障害(自傷衝動など、激しくつらい感情を抱えて苦悩する障害)に有効とされる。
眼球運動による脱感作および再処理法(EMDR : Eye Movement Desensitization and Reprocessing)
とくに心的外傷後ストレス障害(PTSD)に有効であることが知られている療法。
クライエントがトラウマ「記憶を思い出しながら左右に眼球を動かす間に、当初思い浮かべていた記憶と関連した別の記憶」が思い浮かんだら報告し、「その記憶を対象にして再び左右の眼球運動を行い、また新たに思い浮かんだ記憶を医師やセラピストに再び伝える──という手続きを繰り返して」いくうちに、トラウマ記憶が「セピア色の記憶へと変化していく」メカニズムを用いる。[トラウマ記憶もセピア色に、「EMDR」の驚異]
認知療法(Cognitive Therapy)
思考プロセスの誤りに焦点を当てる療法。
人間は世界のありのままを観ているのではなく、思い込みや解釈を加えた「考え=認知」を作り出しており、成長するにつれて「認知」が歪んでいくことで、不快な気分や不適切な行動が生まれる、という立場から、認知を修正することで症状の改善を図る療法。
認知療法(CT : Cognitive Therapy)
自動思考、つまり「何らかのきっかけがあるとそれに伴って自動的・習慣的に、意図せず脳裏に浮かぶ思考やイメージ」と、スキーマ(信念)、つまり「過去の経験から形成され、恒常的で、個人に特異的な認知」を重視し、これらを修正しながら症状改善を目指す療法。[参考:認知療法研究所]
交流分析(TA : Transactional Analysis)
過去の自分から解き放たれて、開かれたコミュニケーション(=交流)に支えられた親密な人間関係を築くなかで、自律的で豊かな人生を目指す療法。
下記2点のほか、多様な技法を用いる。
- 構造分析:3つの自我状態(子:過去、大人:現在、親:過去)の理解から、「今の自我状態」に気づくことで、過去に縛られない自律的な自分を再発見する
- やりとり分析:コミュニケーションを、「自分の3つの自我」と「相手の3つの自我」を結ぶ 3x3=9本 の線で結ぶ分析を通して、自律的なやり取りを目指す
スキーマ療法(Schema Therapy)
心の深いレベルにある思考・行動パターン(=スキーマ)に気づくことを通し、ネガティブな感情記憶・身体的感触を減少させ、こころの回復力を取り戻すことを目指す療法。
たとえば、「欠陥スキーマによって、人の目を恐れるチャイルドモードに陥った時に、新たにヘルシーアダルトモードと呼ばれる、情緒的に温かい大人のモードを練習することで、不安から自分を守り、自信を育て、傷ついたチャイルドモードを癒して」いく。[スキーマ療法]
ゲシュタルト療法(Gestalt Therapy)
人間は本来、統合されたもの(=ゲシュタルト)という観点から、「他者との、あるいはコミュニティでの、そして環境全般とのコンタクト(接触)を改善するというゴールをもった」療法。[ゲシュタルト療法とは何か]
「思考・感情(精神)・身体を「統合」する」ことを目指し、「それまでの心理療法のように学問的に分析や解釈をするのではなく、人間としての存在に重点を置いて、「今、ここ」で起きていることに焦点を当てるところに特色」がある。[ゲシュタルト療法について]
神経言語プログラミング(NLP : Neuro Linguistic Programing)
最新の心理療法で、「脳と心の取扱説明書」とも呼ばれる。
無意識のなかにプログラミングされた「自分の生き方のパターン」を書き換えて(再プログラミングして)、思考パターンや行動パターンを最適化する療法。
催眠療法のミルトン・エリクソン、ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズ、家族療法のバージニア・サティアの方法論をもとに、「ことば」や「非言語(ノン・バーバル)」の使い方、無意識の活用方法を科学的に分析し、体系化したもの。
オススメ書籍です。『マンガでやさしくわかるNLP』は、マンガ部だけでなく、NLPの重要ポイントの解説もとても分かりやすく書かれています!
感情焦点化療法(EFT : Emotion-focused Therapy)
苦しんでいる気持ちに焦点を当てる療法。
「現代の認知科学と感情理論を基盤として、パーソン・センタード・アプローチやゲシュタルト療法、体験療法や実存療法といった従来の心理療法のエッセンスを統合した比較的新しい心理療法」。[エモーション・フォーカスト・セラピー(EFT)を学んでみて]
クライエントに対して、「自分が信じて従うべきはどの感情なのか? この感情は通過(バイパス)してもっと深くを探るべきなのか? どの感情を調節したり変容されるのが良いか? そしていつどの感情をそうすべきか?」といった質問を投げかける。[エモーション・フォーカスト・セラピー(感情焦点化療法/ Emotion-Focused Therapy)]
短期療法:ブリーフセラピー(Brief Therapy)
短い期間で問題の解決をめざす心理療法の総称で、「問題の所在を精神病理やパーソナリティといった個人の内側に想定するのではなく、個人と個人の相互作用の仕方から問題の理解を図り、「原因探し」よりも「解決」に重点を置き、比較的に短期間での変化を志向する」療法。[ブリーフセラピー]
人間主義的療法(Humanistic Therapy)/人間性心理学(Humanistic Psychology)
人間を、「環境や他者に操作される受動体」、「統制できない無意識の力に支配されている存在」ではなく、「ひとつの人格に統合され、自覚・自由意志、個性・独自性をもつ存在」として捉え、病理からの回復と健康を求めることを目指す療法。
過去を重視する精神分析と異なり、クライエントの苦悩やトラウマを探るのではなく、クライエントが自ら希望に満ちた展望を示すことを目指す。
人間性心理学とも呼ばれ、「自己実現理論」の提唱者であるマズローが有名であるほか、「個人心理学」の創始者アルフレッド・アドラーもここに加えられることがある。
実存療法(Existential Therapy)
人間とは、「人生一般」や「普遍的人生」のようなものを生きるのではなく、個々人が直面する経験をもとにして主体的な人生を生きる「現実存在=実存」である、という観点から、クライエント本人が選択する自由度を高めることを目指す療法。
統合的心理療法(Integrated Approach)
行動・認知を対象とする統合的な療法。
認知行動療法(CBT : Cognitive Behavior Therapy)
行動を対象にした行動療法から、認知(=思考)に焦点を当てることによって発展してきた心理療法の総称。
無意識など精神分析の前提条件は除外し、意識的な思考を対象とする療法。
第3世代の認知行動療法として、マインドフルネス認知療法、アクセプタンス&コミットメント・セラピー、弁証法的行動療法などがある。
マインドフルネス(Mindfulness)
過去の失敗や未来の不安といったネガティブなことを考えて「心ここにあらず」の状態から脱し、「今、瞬間の気持ち」「今ある身体状況」をあるがままに知覚して(=マインドフルになって)受け入れることで、幸せを感じられる時間を長くすることを目指す療法。
仏教的な瞑想によって、腹式呼吸や呼吸と連動した腹部の動き、五感を使う体験などを通して、過去・思考・感情にとらわれない心を育成する。
オススメ本を2冊ご紹介します。
『「今、ここ」に意識を集中する練習 心を強く、やわらかくする「マインドフルネス」入門』は、タイトル通り、53個のエキササイズというか、コツのようなものが載っています。多くのことに「気づかせてくれる」本です!
『自分でできるマインドフルネス:安らぎへと導かれる8週間のプログラム』は、瞑想など13のエキササイズ(うち、8つの瞑想はガイダンスが付属CDに収録)を紹介。マインドフルネス創始者ジョン・カバットジンの序文つき。
まとめ
本記事では「心理療法」について代表的な18技法を紹介してきました。
これらはみな、「こころの安らぎ・成長を得て幸せになる」ための技法で、カウンセリング、コンサルティング、コーチングのベースとなるものです。
皆さんが目指すビジネスやサービスにとってヒントになるものがあれば、ぜひ、取り入れてみて下さい。
また、これから心理学を学びたい、心理学関係の資格をとりたいという方は、これら「心理療法」を比較するなかで、将来ビジョンを描いてみるといいのではないでしょうか。
なお、下記『基礎から学ぶ心理療法』は、心理療法のカタログともいうべき便利な本で、本記事を書くにあたって、たいへん参考になりました。
参考文献もきっちり紹介されています。
心理学の3巨匠、フロイトの精神分析、ユングの分析心理学、アドラー心理学の概要も載っています。
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