「無意識(潜在意識)」は、意識の95%を占めるといわれていますが、いったい、「脳のどこで・どのように」作られるか、興味ありませんか?
実は、「無意識」は、脳の特定の場所で作られるのではありません。
なぜなら、「脳の大部分、自律神経、身体の抹消器官・臓器全体」が総動員で「無意識」を担っている、ということが脳科学で分かっているからです。
この記事では、「無意識」とはなにか、どのように作られているか、についてご紹介していきます。
記事を読み終えると、「無意識が意識の95%」といわれている理由が理解できるようになります。
無意識って何?
「顕在意識」や「理性」が、人間の脳のうち「最も進化した部分」である「大脳皮質」 で作られるのは、常識として知っていました。
でも、「無意識(潜在意識)」とはいったい何なのか、どこで作られるのか、心理学のいろいろな文献、サイトをあたっても、答えはでてきません。
「大脳辺縁系で作られる」「小脳が担っている」という説がないわけではありませんが…
そうしたら、「人間・創造性の心理学」というサイトの、「脳科学的に見た無意識の機能とは 脳神経のメカニズム」という記事にヒントがありました!
ようするに、「無意識は、大脳皮質以外の脳+臓器全体で作られる」という仮説です。
この記事には、なるほど! と思いました。
心理学でよく言われる、「顕在意識5%、潜在意識95%」ですが、「大脳皮質5%、それ以外の脳+臓器全体95%」と理解すれば、腑に落ちます。
それに、腑に落ちる、腹落ちする、背筋がゾクゾクする、胸がチクチクする、といった言い方はよく使われますが、「臓器にも意識がある」ことを表しているのだと思います。
で、心理学ではなく、脳科学の情報を検索していたら、『「こころ」はいかにして生まれるのか』という本に、「こころ」という観点から、「無意識」について肉薄している最新の学説を発見しました。
今回は、この本に書かれている内容をもとにしながら、「無意識」の正体に迫ってみたいと思います。
本記事では、引用部分を〈 〉で表します。
結論:こころ = 認知(5%)+ 情動(95%)
こころ = 認知 + 情動
上記の本には、人間の「こころ」の大部分は、大脳の奥底で紡ぎ出される「情動」で、それを大脳の表層部が「認知」することで、「こころ」がつくられる、ということが語られています。
- こころ = 認知 + 情動
この本にはありませんが、著者・櫻井武先生の論文を拝見すると、「情動」には emotion という英単語が当てられているようです。
「認知 congnition」は、心理学ではふつう、「思考、考え thoughts」とも表現されます。
櫻井先生は、「こころ = 認知 = 情動」と考えておられるので、「こころ」を英語で表現するなら、 mind が最もしっくりくるように思えます。
情動 = 情動体験 + 情動表出
そして、「情動 emotion」については、次のような説明があります。
- 情動 = 情動体験(≒ 感情)+ 情動表出(= 身体反応)
ここで、別記事で紹介した下図「認知行動療法(CBT)の基本モデル」をご覧ください。
櫻井先生の「情動 emotion」は、「感情 feelings」「身体反応 physical reactions」 に該当します。
※「情動」に emotion の訳語をあてると、「感情」は feelings という訳語が該当することになります
まとめると、下記のようになります。
- こころ mind = 認知 cognition + 情動 emotion
- こころ mind = 認知 cognition + 感情 feelings + 身体反応 physical reactions
ここから先は、脳科学の知見をつかった説明になります。
脳の全体構成
脳は、生物の進化になぞらえて、次のように3層(4つの脳)に分けて考えることがあります。(心理学者・神経科学者ポール・マクリーンによる「三型階層性脳」説)
- 人間脳 :大脳皮質 (20万年前〜)
- 哺乳類 :大脳辺縁系(2億5000年前〜)
- 爬虫類脳:脳幹、小脳(〜5億年前)
生物(脊椎動物)が、進化の過程で、新しい機能をもつ組織を外側へ重ねるように拡げていったものが、「脳」なんです。
脳についての以降の説明では、『「こころ」はいかにして生まれるのか』のほか、下記書籍も参考にしました。
『認知脳科学』嶋田総太郎 著、2017
脳の構造とはたらきについて、イラストを多用して説明されていて、分かりやすいです。
『心理学 第5版補訂版』鹿取廣人、杉本敏夫、鳥居修晃、河内十郎 編集、2020
イラストが多く2色刷りで分かりやすい。心理学と脳科学を同時に理解したい場合におすすめ。
脳の構成をブレイクダウンすると、下表のようになります。
代表的な部位のみを記載し、重要な項目は太字にしてあります。
大脳皮質
大脳皮質は、脳のうち、もっとも進化している部分で、クジラ、類人猿や、ヒトに顕著な機能です。
ヒトの場合、大脳の90%以上を占めており、高度な認知や行動をつかさどっています。
脳は部位によって役割分担ができていますが、大脳皮質の場合、下図にあるように、4つの「葉」に区分されています。これを「機能局在」といいます。
前頭葉にある前頭前野は、論理、判断、未来予測などを担います。
大脳辺縁系
大脳辺縁系は、情動(感情 + 身体反応)をつかさどる部分です。
感情は、生きていくために必要な本能のようなものです。
たとえば、恐怖や不安といった感情があることによって、危険から回避して生存確率を高めています。一方、喜びなどのポジティブな感情が行動のモチベーションになっています。
また、視床は、感覚神経系からの感覚情報を取り込み、大脳皮質に中継します。
大脳基底核
大脳基底核は、大脳皮質と視床、脳幹を結びつけている神経核の集まりです。
大脳基底核のおもな構成要素として、線条体があります。
線条体にある側坐核は、快感物質「ドーパミン」を受け、「気持ちいい」と脳が認知した行動を強化します。
脳幹
脳幹は、呼吸、循環、体温調節など、生命維持機能をつかさどっています。
脳幹が壊れると死に直結します。
たとえば、瞳孔の開閉も脳幹が担っていますが、眼に光をあてて瞳孔が収縮しないことを確認して、「脳死の判定」が行われています(日本の場合)。
赤部分(下位脳幹)の最上部(オレンジの「間脳」に接する部分)に「中脳」があります。
中脳のなかにある「VTA(腹側被蓋野)」は、ドーパミンをつくり出すところです。
小脳
小脳は脳幹と接続しており、運動制御が主な機能です。
また、運動技能を熟達させる学習・記憶とも深い関わりがあります。
運動以外の認知機能との関わりについても議論されていますが、解明は進んでいません。
無意識と顕在意識
「こころ(認知 + 情動)」の全体メカニズムを、オリジナルの図にしてみました。
「無意識と顕在意識」の役割分担、としてとらえて頂いても構いません。
なにしろ、とんでもなく精巧にできている「人間の脳」のしくみを表しているので、複雑な図解になっていますが、パートに分けて、分かりやすく説明していきます!
まずは、要点をつかんでください。
- 「こころ」のうち、「認知(顕在意識)」のはたらきは、ごくわずか(5%)。圧倒的ボリューム(95%)は「情動(≒ 無意識)」のはたらきで占められている(5:95というのは、あくまで比喩的なとらえ方です)
- 「認知」は大脳皮質(前頭前野)が担い、「情動」はその他の脳・神経・身体(抹消の器官・臓器)が担っている
- 「情動」をつくり出すエンジンは、大脳辺縁系
- 「情動」にかかわるシステム(系)には、感覚、記憶、自律神経系、内分泌系、神経伝達物質(報酬系のドーパミン、その他気分をつくり出すノルアドレナリンなど)がある
- 前頭前野(< 大脳皮質)は、情報の統合・制御、論理、判断などを担っている
- 「情動」が前頭前野で「認知」された(顕在意識となった)ものが「こころ」
大脳辺縁系:情動のエンジン(無意識)
大脳辺縁系がつくり出す「情動」を、下記6つのはたらきに分けて説明します。
これら6つのシステムが「無意識」をつくり出します。
- 感覚
- 記憶
- 興奮(自律神経系)
- ストレス(内分泌系)
- 快感(報酬系)
- 気分(神経伝達物質)
感覚
外界からの感覚情報(視・聴・味・触・温痛覚)は、顔面や手足など身体全体の感覚器官がキャッチしたのち、大脳辺縁系にある「視床」に入ります。
視床から2系統に分かれ、一方は大脳皮質・頭頂葉の「一次感覚野」に、他方は大脳辺縁系の「扁桃体」に送られて処理されます。
特筆すべきは嗅覚。嗅覚だけは、視床を経由せず、ダイレクトに扁桃体に入ります。
アロマテラピーのリラクゼーション効果の秘密は、ここにあります。
扁桃体に入ってきた感覚情報は、「情動」となって「前頭前野」に送られて認知される(情動体験 ≒ 感情)と同時に、「抹消器官・臓器」に送られて反応を起こします(情動表出 = 身体反応)。
腑に落ちる、腹落ちする、背筋がゾクゾクする、身の毛がよだつ、胸がチクチクする、といった「無意識の身体反応」は、このように作られているわけです。
情動には、逆方向(フィードバック)もあります。
前頭前野で認知された「(恐い などの)感情」や、「(身の毛がよだつ などの)身体反応」が、大脳辺縁系にフィードバックされて、「感覚」が強化されたりするわけです。
また、「視床−大脳基底核−大脳皮質の運動野」は、感覚情報のループを作り、四肢の運動をコントロールしています。
記憶
記憶には、短期記憶と長期記憶があり、長期記憶には、顕在記憶と潜在記憶があります。
顕在記憶は、(前頭前野において)「言語化できる記憶」という意味で、陳述記憶とも呼ばれます。
それぞれの記憶の内容は、つぎのとおりです。
- 作業記憶 :ワーキングメモリー。思考や計算時に一時的に蓄えられる
- 意味記憶 :単語、アイコン、画像などから具体のモノを想起させる
- エピソード記憶:時間・場所・感情を含んだ記憶。子供の頃の思い出など
- 情動記憶 :喜び・恐怖などの情動と結びついた記憶。トラウマもその一種
- 手続き的記憶 :自転車に乗る、ピアノを弾くなど、運動・技能を担う
顕在記憶である「意味記憶」「エピソード記憶」は、「海馬」と「前頭前野」が担います。
潜在記憶である「情動記憶」は「海馬」と「扁桃体」が、「手続き記憶」は「小脳、大脳基底核、大脳皮質」が関係しています。
感覚情報や体験は、扁桃体で「情動」をつくり出しますが、強い情動は「情動記憶」として蓄えられます。
そして、再び似たような感覚情報がキャッチされたときに、扁桃体に蓄えられた記憶を手がかりにした身体反応や行動が引き起こされます。
その手がかりとなる記憶を、「手がかりによる情動記憶」と呼びます。
一方、似たような文脈(体験)に遭遇したとき、海馬に蓄えられている「意味記憶」や「エピソード記憶」と関連づけた記憶が扁桃体もからめてトリガーとなり、身体反応や行動が引き起こされます。
そのトリガーとなる記憶を、「文脈による情動記憶」と呼びます。
認知行動療法やスキーマ療法でいう「スキーマ」とは、「文脈による情動記憶」と「エピソード記憶」が結びついたものと考えられます。
- スキーマ = 文脈による情動記憶(潜在記憶)+ エピソード記憶(顕在記憶)
スキーマについては、下記記事をご覧ください。
興奮(自律神経系)
歓喜や恐怖のような顕著な情動は、ポジティブ、ネガティブを問わず、「扁桃体→視床下部→脳幹」のルートで情報が伝達され、自律神経のうち「交感神経」を通じて興奮を引き起こします。
その結果、心拍数・血圧・呼吸数の上昇、発汗、瞳孔の散大などの身体反応にいたります。
ストレス(内分泌系)
ポジティブ情動、ネガティブ情動は、「視床下部」においてコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)と呼ばれる物質の生成・分泌を促します。
そして、これを受けた「下垂体」は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を血液中に放出します。
最後に「副腎皮質」が、糖質コルチコイドと呼ばれる副腎皮質ホルモンを分泌し、血糖値を上げたり、免疫系を抑制して炎症を抑えたりして、ストレス状況に対抗します。
これを「ストレス応答」といいます。
快感(報酬系)
脳幹の「腹側被蓋野(VTA)」で生成される神経伝達物質「ドーパミン」は、「気持ち良い」という情動をつくり出し、行動のモチベーションを形成します。
これを「報酬系」といいます。
ドーパミンは、大脳基底核の線条体にある「側坐核」、扁桃体、海馬、前頭前野など広範におよびます。
とくに側坐核にドーパミンが放出されると、心身は快感に抗しきれなくなります。「脳内麻薬物質」といわれる所以です。
気分(神経伝達物質)
脳内の情報伝達は、情報処理に特化したニューロン(神経細胞)が担っています。
ニューロンを介した情報伝達には、
- 電気的信号 によるもの
- 神経伝達物質 によるもの
の2種類があります。
神経伝達物質には、分子構造のちがいによって、次のような種類があります(代表的なもののみ例示)。
- アミノ酸類:グルタミン酸、GABA など
- モノアミン類:ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン、ヒスタミン、セロトニン など
- アセチルコリン:副交感神経にはたらく
- ペプチド(> 神経ペプチド):オキシトシン、エンドルフィン、オレキシン など
これらの神経伝達物質は、脳内のさまざま「気分」をつくり出す役割を担っています。
大脳皮質:認知・情報統合(顕在意識)
大脳皮質は「4つの葉」に区分され、それぞれの「葉」もまた細かい担当部位に分かれています。(「機能局在」といいます)
前頭葉にある「前頭前野」は、「機能局在」的に処理されたさまざまな情報(感覚、情動体験、記憶など)を統合するという、きわめて重要な役割を担っています。
そして、そのような統合情報をつかって、論理、意志、判断、未来予測など、高度な認知機能(思考機能)を担います。
これが「顕在意識」といわれる中身です。
まとめ
本記事では、意識の95%を占めるといわれる「無意識(潜在意識)」の実体は「情動」であり、「情動」は「脳の大部分、自律神経、身体の抹消器官・臓器全体」が総動員でつくり出していることを、脳科学の観点から紹介してきました。
「無意識(潜在意識)」はいわば心身全体でつくられているわけですから、それを制御したり、書き換えたりするのは、「認知・思考(顕在意識)」だけでは役不足で、運動、瞑想、食事や睡眠といった心身活動や、日常生活における行動体験がとても重要なのです。
「認知・思考」に深入りせずに、呼吸や瞑想を重視する「ヨガ」や「マインドフルネス」が注目されているのも、「情動」への介入方法として優れているためと考えられます。
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